089.マニキュア
アナタの初めてのプレゼント。
オレンジ色のマニキュア。
大粒のラメが入っていて、指を動かすたびにキラキラと揺れる。
アナタに会う日はいつもこれをつけて行った。
嬉しかったから。
アナタが似合うって笑ってくれたから。
3日前もこのマニキュアだったのをアナタは気づいていたのでしょうか。
ファーストフード店でアナタは目を合わせずに言った。
涙した私の手元でもアナタのマニキュアはずっと光っていた。
もう残り少なくなった。
容器いっぱいに入っていたのはアナタと私の時間。
私はその蓋を回した。
蓋を持ち上げると、ほのかにシンナーのにおいがする。
刷毛にはどろりとした液体がキラキラとまばゆく色を変えていく。
私はそれを左手の親指に塗った。
少し冷たい。
刷毛を動かして爪全体に広げると次の指へと移って行く。
次は右手。
最後に小指を塗り終えたときには、容器の中もほんの少し残っているような状態になった。
もう使えない。
まだ乾いてもいない右の人差し指の爪を触った。
アナタとよくつないだ指。
触れた左手の親指にラメがいっぱいついた。
そして右の人差し指は汚く、輝きが鈍ってしまった。
失敗。
マニキュアは乾く前に触ってはいけないもの。
私もこの涙が乾くまで誰も触らないでいて。
乾いて綺麗に仕上がったら、私はこのマニキュアを捨てよう。
そしてなんだか自分の文じゃないみたい。