073.煙

「あ、侑士! 跡部!」  部活でも行こうかと足を運んでいた二人はどこからか呼び止められて立ち止まる。  声の主は分かる。  が、主が何処にいるのか分からない。 「上っ」  声の通り見上げる二人。  そこで初めて声の主が何処にいるのか分かった。  2メートルほど先にある大木の上…である。  その木に近づく2人。 「岳人、またえらいとこにおるなぁ」  忍足は呆れながら呟く。  声の主である向日は満足そうに笑った。 「いーだろ〜」  えへへと笑う。  そんな向日を見て、跡部は微笑した。 「なんとかと煙は高いところが好きっつーのもあながち間違いじゃねぇな」  行くぞ、と跡部は歩き出した。 「なんだよ! それっ」  向日はムキになる。  木からひょいっと飛び降りた。  すたっと綺麗に着地して、まだ木の下にいた忍足の許へ駆け寄ってくる。 「『なんとか』ってなんだよ?」  忍足は笑みを浮かべた。 「岳人は知らんほうがええって」 「なんだよ! 教えろよ〜」 「部活行くで」  すたすたと歩き出す忍足の後ろを向日は追いかける。 「なぁ、教えろよー」 「『なんとか』ってなんだよ?」  忍足の周りをうろうろしながら向日は同じ質問を繰り返した。  いい加減、忍足もうんざりしてくる。 「そんなに知りたいんやったら、鳳にでも聞いてきたらええやんか」  そうするっと向日は鳳の許へ走りだした。  忍足はそれを遠くから見守っている。  今、向日は鳳の許へたどりつく。  どうやら質問をしたらしい。鳳は困った顔をしている。  しばらくして、向日はいきなり走り出した。  行き着く先は跡部の許である。 「跡部っ! 誰が馬鹿だよっ!」  そうやって叫ぶ向日を見て跡部はふんと鼻で笑う。 「今更気づいたのか。本当のことだろ?」 「……馬鹿っていったほうが馬鹿なんだっ!」 「俺は『なんとか』って言っただけだ。馬鹿とは言ってねぇよ」  忍足はその様子をやはり遠くから見ていた。 「あの、忍足先輩……」  現れたのは鳳である。 「俺、向日先輩に……」 「ああ、かまへんって」  しゅんとなっている鳳に忍足は笑って返した。  それでも鳳の気持ちは晴れないらしい。 「でも……俺、止めてきます」  走りだそうとする鳳の手を忍足は取った。  え? と鳳は振り返る。 「じきに終わるわ。見とき」  忍足がそういったとき、今まで続いていた口論が急に止まる。  どうやら向日が黙り込んでしまったらしい。 「俺様には敵うわけねぇだろ?」  憎々しい笑みを顔いっぱいに浮かべながら跡部は見下すように言った。 「やっぱ、なんとかと煙は高いところが好きやな」  忍足は独り言っぽく呟いた。 「え?」 「鳳、そろそろいくで」 「えっ、あ、ハイ」 「まぁまぁ、岳人落ち着き。跡部も煙と一緒なんやから」 「どーいう意味だよそれ?」  跡部に聞こえないように忍足はそう言った。 煙って聞いて『馬鹿と煙は高いところが好き』って一番最初に出てくる自分って……。
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