042.メモリーカード

 珍しく早起きした俺の相棒はガタガタと家中を歩き回っている。  ベットの下を除いてみたり冷蔵庫をバタバタと開けてみたり。 「何やってんだよひーちゃん」  テレビを前を何度も行き来されてちょっとムカついた俺は声をかける。  ひーちゃんはう〜ん? と声を上げたが動作は行ったままである。 「だから何してんだよ」 「ねぇ、俺のメモリーカードしらねぇ?」 「メモリーカード?」  俺が聞き返すと、ひーちゃんは初めてこっちを向いた。 「そ、メモリーカード。プレステの」  俺はふと、テレビの前に置いてあるプレイステーションに目をやった。  差込口には既にメモリーカードがささっている。 「そこにあんだろ?」  俺が言うとひーちゃんはぶんぶんと首を横に振る。 「あーそれじゃなくって」 「なくしたのか?」 「そーみたいなんだよねぇ」  ひーちゃんは軽くそういった。  そして動きを再開する。  ガタガタと大きな音を立てている。  飽きっぽく、すぐ弱音を吐くひーちゃんにしては珍しい。  よほど大事なものなんだろう。 「マジでどこいったかな〜」  クローゼットの中に潜り込みながらひーちゃんは愚痴っぽく呟いた。 「誰かに貸したんじゃねぇの?」  テレビを見ながらその呟きに俺は返す。  ひーちゃんは何も言わずにクローゼットの中をあさっている。  変な沈黙が生まれた。  音と言えばテレビから流れる、くだらないCMくらいだった。 「そうだっ!」  クローゼットの中からちょっと曇った声が聞こえた。  それからごんという鈍い音と、いてっという声が聞こえた。 「そうだ、それだよ京一っ!」  満面の笑みでクローゼットから飛び出してくる。  いやぁすっかり忘れてたよ〜とか何とか言いながら、机の上にあるケータイを手に取った。  そして電話をかける。 「もしもーし」  ひーちゃんはベットの上に腰掛けた。 「あー違うんだなぁ。残念。そ、平和なんだからいいじゃんよ」  どうやら相手は一緒に戦っている仲間らしい。  ひーちゃんはニコニコと話を続ける。 「で、聞きたいんだけど。俺、お前にメモリーカード貸したよねぇ?」  ひーちゃんの顔が曇る。 「えぇ? 劉じゃない…? マジで? そーなんだよ、見当たらなくってさぁ」  どうやら電話の相手は劉らしい。  そしてどうやら違っていたらしい。 「……うーん。じゃ、またね」  ひーちゃんは小さくため息をついて電話を切った。 「ダメだったのか?」  うん。とひーちゃんは返事をする。  そしてばたっと仰向けに倒れる。 「何処いったんだよぉ、俺のメモリーカード」  天井にあえぐ。  1人でわぁわぁ騒いでいるかと思えばいつの間にか黙り込んでいる。  なれない早起きで疲れたのかひーちゃんは寝息を立てていた。  かなりマイペースな奴……。  2時間ほどしてもひーちゃんは目覚める気配はなかった。  が、目を覚ますことになる。  それは、けたたましくインターホンがなったからである。  立った今、起こされて目を擦っているひーちゃんは立ち上がる気配もない。  俺はしょうがなくゆっくりと立ち上がると、玄関まで足を運んだ。  扉を開く。 「あ、京一先輩」  ドアの前に立っていたのは諸刃だった。  顔をあわせるのは久しい気もする。 「どーしたんだよ?」 「あの、龍麻先輩いますか?」  俺は振り返り、ぼーっとしているひーちゃんに声をかける。  ひーちゃんはダルそうに、こっちに向かってきた。 「何?」 「あの、劉さんに聞いたんですけど……先輩の探しているのってコレですか?」  差し出された手のひらの上に載っているのはメモリーカード。 「あぁ! それそれっ」  ひーちゃんは眠そうだった目をぱっちりと開くと嬉しそうに答える。  そして手にとって見ている。 「どーしてお前がコレを?」  俺が、ひーちゃんに変わって質問してみる。  諸刃は少し困ったような表情を浮かべた。 「あの、龍麻先輩がやってみろってこのソフトと一緒に……」  諸刃が一本のソフトを差し出す。  あぁ! とひーちゃんの目がさらに輝く。 「そっか、諸刃に貸してたんだった! すっげぇ探してたんだよなぁ〜」  いやー良かったよかったと一人満足している。 「諸刃、上がっていくか?」 「いえ。これから用事が入っているんで失礼します」  諸刃は笑顔で去っていった。  ひーちゃんはメモリーカードを早速、プレステに差し込んでいる。  鼻歌交じりにゲームを始めるひーちゃんを見て俺は冗談ぽく言ってみた。 「お前自信のメモリーカードが必要なんじゃねぇのか?」  ひーちゃんは振り返った。 「俺自身がメモリーカードなの」 「ちっとも使えねえじゃん」 「メモリーカードには容量が決まってるからね〜」  そう笑うと、視線をテレビに戻す。  一体奴の頭の中は何で埋まっているのだというのか……。  俺は嬉しそうな背中を見てふと、考えた。 メモリーカードと聞いてプレステしか思いつきませんでした。 うちのひーちゃんはゲーマーです。
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