019.ナンバリング(番号を振ること)
はぁ、と隣の友人が似合わぬため息を吐いた。
「どーしたの、ため息なんかついて」
友人は目だけボクに向けて。
なんだかとっても悲しい目をしているのだけは分かった。
「なんかさぁ。スポーツって悲しいなって」
スポーツしか能の無い……って言ったら失礼かもしんないけどそんな男が何を言い出すのかと思う。
実際彼が生き生きしているのは体育の授業と部活でテニスをしている時間だけだ。
飛ぶのも投げるのも走るのもすべてが彼には魅力的らしい。
そんな彼がスポーツを悲しいだなんて。
「どういう意味なの??」
なんてかさぁって彼は呟いた。
「今日、バスケやって思ったんだけど」
今日の4時間目。
体育の授業はバスケットボールだった。
誰よりも張り切って楽しそうにしていたのに。
「背番号とかって何なわけ?」
何なわけ? と聞かれてもなぁ。
「遠くから見てて誰だか分かるようにするためじゃないの?」
自分で答えながらもその答えにボクは疑問を持っていた。
実際、背番号とかって何のためにあるのか良く知らないし。
「そうなんだけどさ」
あぁ、そうなんだ。って勝手にうなずいたりして。
「でもさぁ、番号って……例えば野球だけど。これってやっぱ4番の人とか注目されるでしょ?」
「学生の野球はね」
プロ野球は何も関係ない。
自分で決めてるしね。
「なんかそれが悲しいの」
「意味がよく分かんないんだけど」
うーんと彼は渋い顔をした。
どうやらボクのために悩んでくれているらしい。
「例えば、俺が4番打者だとするでしょ?」
すごい設定だ。
「で、打席に立つじゃない? そうするとさぁ、4番の菊丸、って思われるんだよねぇ」
「そうだけど、それが??」
もーう鈍いなぁとボクにふくれっつらを見せた。
英二だけには言われたくないんだけど。
「俺は俺、菊丸は菊丸じゃん? 菊丸が4番なのに」
「あぁ、なるほど」
そこまで言われてやっと言わんとしていることが見えてきた。
「あれでしょ? 番号が勝っちゃってるってことでしょ? 菊丸が4番じゃなくて4番の菊丸になっちゃってるって」
そうそれ!と彼は嬉しそうにうなずいた。
「それって、結局どのスポーツも一緒じゃん?」
まぁそれはそうだろう。
スポーツって順位をつけるものだから。
「だから俺も、菊丸イコールダブルス1じゃなくて、ダブルス1イコール菊丸になっちゃってるのかなぁ」
「そうだろうね」
「そんなあっさり言うなよな!!」
なんでボクが怒られるんだろう?
「でも実際そうだと思うよ? うちに偵察に来ている人っているじゃない?
やっぱりソレって英二がダブルス1だからでしょ? あ、ダブルス1の菊丸英二だっ、って」
うーっと彼は体中の力を抜いたような声を出した。
ボクはそんな風に答えたものの、こんなことを考えたのは初めてだった。
気づかなかったんだ、要するに。
スポーツはそういうもんだとなんの疑いも抱かなかった。
当たり前をひっくり返すのは難しい。
「俺、どうやったら菊丸英二になれるかなぁ」
こんなに真剣な顔、数学の授業以外では見れないと思っていた。
まさか昼休みにそんな顔が拝めるとは。
今日は雨が降るかも知れない。
どうしよう、ボク傘持ってないや。
「菊丸英二として頑張るしかないんじゃない?」
それしかボクには思いつかない。
彼ほど発想が奇抜ではないから。
「それしかないのかにゃー」
頭を抱え込む。
「うん、それが一番手っ取り早いと思うよ」
彼は何か腑に落ちないような顔をしていた。
今日の部活はいつもより元気がない。
かなって思ったんだけど。
彼はいつもと何も変わらずに、元気にテニスをやっていた。
ボク、英二のことよくわかんないや。
まぁいいや。
シングルス2のボク、頑張ろ。
今はそれしかないだろうから。
凄く日常的なものが書きたくなって。