噂ブキ

 もう何キロぐらいだろうか。  馬鹿だなぁ俺。  自転車で来ればよかったのに。  もしくは財布くらい持ってくれば良かった。  家を飛び出したときはそんなこと微塵も考えられなかったから。  肺が痛い。  足がもつれる。  日は沈みかけて、歩いているのは黒い制服を着た中学生が数人。  買い物帰りのオバちゃん。  俺は町外れのビルを目指している。  高校に入って俺はまず、恋をした。   隣の席になった彼女。  時たま見せる笑顔がすっげぇかわいい。  くりくりとした大きな瞳が印象的だった。  俺らはすぐに仲良くなった。  学校の無い日も一緒にグループで出かけるようになっていた。  俺は自分の気持ちに正直な男だ。  出会って1ヶ月。  気持ちを彼女に伝える。  が、あっさり沈没。  まぁしかし、これで諦める俺ではない。  むしろ彼女に対する想いはさらに熱を上げる。  そして俺は二回目の告白に踏み切ることになるが、またも撃沈することになる。  俺は初めて自分を抑えるということを学んだ。  友達でいいじゃないか。  このままで。  何がダメなんだ?  そんな気持ちのまま俺の足は彼女へと向かっていた。   彼女の隣にいるのは部活の友達だろうか?  一緒に駅までの道を歩いている。  俺は揺れていた。  どうするべきか。   どんな行動をとるべきか。  俺の友達が隣にいて、俺がこのことを相談したらきっとやめておけって言われたと思う。  でも、そのときはいなかった。  俺は走り出していた。  彼女の前に立った。  にこっと笑って彼女は言った。 「あ、今帰り?」  俺はココで「そーなんだ」って返せばよかったんだと思う。  やってしまった。  勢いで。  ほんとそのままの勢いで。  俺は彼女に気持ちを言ってしまった。  しつこい奴。諦めの悪い奴。  ホントそういう印象しか与えられなかったと思う。  彼女は伏せ目がちに答えた。 「ゴメン…」  3度目も同じ返事だった。  呟くように彼女は付け足す。 「やっぱ友達としてしか見れない……」  そういわれたのは初めてだった。  俺は、彼女を友達以上だと思っていた。  でも彼女は俺を、友達以下としか見ていなかった。  ショックはでかかった。  俺はへらへら〜って笑って。 「そーだよなぁ。そーだと思ってたんだ」  なんてわけわかんないこと言ってその場を去った。  夏休み前の暑い日だった。  流れるように汗をかいてた。  顔にもいっぱい。  泣いては無かったと思う。  多分。  夏休みに突入すると部活しかやることがなくて結構暇である。  もともと、あんまりハードでないうちの部活は休みが多すぎるのだ。  蒸し暑さで目が覚めると家には誰もいなかった。  ケータイを開いて1時を過ぎていることに初めて気づく。  だるい体を起こしながら、近所のコンビニへ足を運ぶことにした。  朝飯でもあり昼飯でもある弁当を買いに行く為だった。  んー外は暑い。  自転車にまたがって走りだすと、強い日差しを直に浴びて少しめまいがした。  ここんところクーラーの入った部屋に閉じこもってたからなぁ。  コンビニの前にチャリを止めると一人で店の中に入る。  良く冷えた店内は俺以外に客が2.3人。  レジの前にいる店員が1人だけであった。  その店員がいらっしゃいませ。と高い声で言った。  俺は弁当の棚の前に立つ。  昼時を過ぎているからだろうか。  棚はすかすかで、大した弁当も無かった。  しょうがないから冷やし中華の最後の一つを手に取ると、迷わずアイスの置いてある場所まで動く。  あたりはアイスを冷やす為の機械がいっぱい並んでいるせいか、少し熱い。  ざぁっとケースの中を見て、ぱっと決めると俺はケースの扉を開けた。  中はひんやりと冷たい。  むしろ寒いくらいだ。  ソーダ味のアイスを手に取ると、冷やし中華と共にレジまで運んでいく。  どんとレジの上に載せると、店員はそれを手に取った。  手つきが慣れていないところからみて、どうやらバイトだろう…。  やけに手間がかかっている。  でも、それより気になったのはこのバイトの人間だった。  歳は俺と同じくらい。  どこかで見たことあるような……。  バイトは二品を袋に詰めると俺の方に差し出して金額を言う。  そのとき初めて目が合った。  お互いの反応は一緒だった。 「あっ……」  声に出したのは向こうだけだったけど。  見たことある……と言うのはあたっていた。  確かに見たことはある。でも話したことはない。  多分、三回目の告白をしたとき彼女と一緒にいた人に違いない。  うちの学校はバイト禁止のはずだが……??  俺は金を払うとすぐに店を出ようと思った。  なんだか気まずいような気がした。  それは俺の方だけかもしんないけど。 「ちょっと、待って」  その子がそういった。  左胸の辺りに名札が着いている。  『三原』  そっか、三原さんっていうのか。 「もう、時間終わりだから。待っててくれない?」  向こうはにっこり微笑んでいる。  断る理由も無いので、俺は小さくうなずいておいた。  ありがとう。と答えると、三原さんは店の奥へと入っていった。  外で待つのは暑いので俺は店の中で彼女を待った。  三原さんはどうやら裏口から出てきたようで、店の中にいる俺を外から手招きした。  キャミソールにミニスカートで爽やかな格好だった。  店から出てきた俺にすかさず三原さんは言う。 「ゴメンね、待たせちゃって」  いや、別にいいよ。と俺が答えると三原さんはふわっと微笑んだ。  俺らは店の脇で立ち話を決め込むことにした。  一体何の用だろうと思っていると 「アイス、溶けちゃうでしょ?食べたら??」  ちらりと手に持っていた袋に目をやったみたいだ。  俺はそこで初めて気づいて、言われたとおりにアイスを手にしながら彼女の話を聞くことにした。  やはり店員は客の買うものを覚えてんだな……嫌な感じだ。 「地元、一緒だったんだね」  彼女はそうやって話を切り出した。  話を聞いているといろんなことが分かる。  実は中学が隣だったこと。  クラスは4つ離れていること。  夏休み限定でバイトしていること、とかだ。 「このこと秘密にしといてくれる?」  多分、コレが俺を待たせた原因なんだろう。  コレを言いたいがために俺を待たせたに違いない。  しかし、コレを聞くまでに俺はアイスを食い終え、その上昼飯まで食ってしまっていた。  俺はうなずくと、その代わり…と条件をだした。  彼女は嫌がる素振りも見せず、いいよっと即答した。  三原さんは自転車の後ろに乗ると、俺と二人で走り出した。 「重くてごめん」  いつもは友達を乗せているが、それよりも断然軽かったので俺は素直にそんなことないと否定しておいた。  相手がどう思ったかは知らないけど。  何処に行く当てもなかったので彼女に聞いてみる。  すると、彼女は見たい映画があるのだと言った。  俺らはいつの間にか映画館の前にいて、いつの間にか並んで映画を見ていた。  それからケータイのアドレスを交換して、彼女を家まで送った。  別れ際、彼女は言った。 「じゃあ、また“明日”」  俺も、また明日と答えるとペダルを踏み込んだ。  急に重みのなくなった後ろは少し寂しかった。  それから俺らは毎日のように会っていた。  最初は俺から何処へ行こう、あそこへ行こうと誘っていた。  が、夏休みも真ん中になってくると彼女から提案が出るようになった。  時には自転車を置いて電車で遠出することもあった。  俺らは口には出さなかったけれどお互い惹かれていた。  いつの間にか付き合ってる状態だった。  その証拠に、俺らは朝まで語り明かしたこともある。  朝まで愛を交わしたこともある。  彼女は抵抗もせずに俺をずっと見つめてくれていた。  夏休みも後半。  ある日、珍しく彼女に会えなかった。  毎日の通い詰めのおかげで親しくなったレジのオバちゃんに話を聞けば体調不良とのことらしい。  だったらメールくれりゃあ良かったのに。 「残念ねぇ〜」  とオバちゃんはニタニタしている。  俺は曖昧に返事を返しておくとコンビニを出た。  今日も行きたいところがあったのに。  俺は軽く舌うちをした。  しょうがなく、家へかえる。  念のためにメールが来ていないかチェックしたけれど、やっぱりメールは来ていなかった。  彼女からメールが来たのは次の日のことである。  まず、謝罪の言葉から始まって、体調を崩してしまったので数日会えないと言われた。  残念だったが、早く良くなれという内容のメールだけ送っておいた。  うんというような返事が返ってきた。  それから会えない日が長く続いた。   コンビニへ行ったら、オバちゃんが三原はもうやめたと言う。  どうしたんだろう。  メールを送っても返ってこない。  さすがに心配になってきたが、いきなり家に行くわけにもいかないだろう。  俺は、あいつからのメールを待っているしかなかったのだ。  じれったい日々が続いた。  ケータイを数分に一回はチェックしている。  彼女からのメールはない。  俺のもとへメールが来たのはなんと夏休み最後の日だった。  喜んだのもつかの間。  俺は一瞬にして地獄へ落とされた。  彼女が別れを告げてきた。  『もう、会うのやめよう?』  何でだよと聞き返せば、ゴメンを連呼する。  いろんな意味で俺の夏は終わった。  未練と、彼女への名残と、夏休みの宿題だけが残った。  休もうか。  何度も思った。  どっかからチャリをパクってこようか。  何度も考えた。  でも、俺は走り続けている。  記憶の中を探ってみれば俺はその噂を何度も耳にしていた。  聞きたくないって気持ちと、どうせ嘘だろうという気持ちでまともに受け止めてなんかいなかった。  アイツのことは考えたくなかったから。  でも、本当なんだ。  嘘だと。  誰か嘘だと俺に言ってくれ。  じゃないと俺。後悔しか浮かんでこないから。  時間が、時間がない。  辛くてふらふらだけど俺は走り続けるしかないのだ。  それはメールで送られてきた。  3度もフラれた彼女から。  『アノ子、死んだよ』  はぁ?って感じだった。  何言ってんだよって。  そうやって送ったら、じゃあ病院来てみなよって。  信じたくないの分かるけどさって。  で、俺は駆け出してきたわけ。  噂なんて。  んなわけないってハナから信じてなかったわけだから。    アイツが病気で入院しているなんて……。  病院についたら、彼女と三原は入り口のところに立っていて嘘だよって言ってくれるよな。  なぁ?  俺、どうして噂信じて見舞いに行かなかったんだろう。  2ヶ月もアイツの顔みてないじゃんか。  きっと病室で笑ってくれたはずなのに。  上手く空気が吸えない。  今にも吐きそうだ。  なんでだよ?どうして俺に教えてくれなかったんだよ。  疑問符ばっか浮かんでくる。  どうしようもない俺を。  後悔することしかできない俺を。  何でもするから。これを嘘だと笑ってくれるなら、なんでもするから。  お願いです。  俺を、こんな俺を助けてください。 ファンタ・ゼロ・コースターさんの歌詞から。
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