ロストマン

 今日は一段と冷える。そんな気がする。  僕はコートのポケットに手を突っ込みながら人通りの少なくなった大通りを歩く。  状況はどうだ?  自問して思わず吹き出した。その息は白く濁って消えた。  状況なんて相変わらずさ。  なんでこうなったのかくらいは覚えているだろ?  僕は別れた君を引き摺ってモヤモヤとした気持ちを抱えたまま生きている。  足元は昨日降った雪が残り、靴を汚した。  僕は君と別れたことを必死に正当化しようとしていた。  別れたことは決して間違いではないと思いたかった。  そう、ここまで来たことは間違いではない。  君と別れてもう1年が経つ。  その間、僕は数人の人と付き合ってそしてすぐに別れた。  ふと顔を上げたら去年君と待ち合わせをしたあの喫茶店が店を閉じていた。  寂しいな。  でもすぐ忘れるさ。寂しいなんて気持ちはなんども押し寄せてくるだろ。  どんなに悲しくても、どんなに嬉しくても昇ってくるのは同じ太陽。  明日だって同じだ。  耳と鼻が痛い。  僕はマフラーに顔を沈めた。口の周りだけ暖かくなった。  君はどうだい?  今日は、冷えるな。  君の手は冷たかったっけ? 思い出せない。  どうやって夜をすごせば思い出せるんだろう。  ぼんやりと街灯の灯りが揺れる。  たった今、開いた自動ドアから幸せそうなカップルと暖かい空気が僕を追い越した。  僕の気持ちはずっとあの日の君を追いかけていた。  届かないと知っていたけど追いかけて、気持ちは迷っているのにそれに気づかないフリさえした。  通りには人がほとんどいなくなった。  だいぶ前を歩く人が1人いるだけ。  髪が長くて、ベージュのコートを着たあの人は……君?  僕は早歩きでその背中を追いかけて。  霞んだ目を凝らして。  あの背中は。あの日、僕に向けたのと同じ背中?    追いかけて。追いかけて。  そして。  あぁ。やっぱり。  君はいない。  僕は立ち止まった。  時間は止まったままなんだ。  あの日、君を失ったことを後悔し続けていた。  そしていろんなことを思い出したよ。  僕と君が別れ間際に一生懸命切り取ったのは、そう、思い出。  結局捨てられずに綺麗に保存していた。  僕は立ち止まったままその背中を見送った。  さようなら。  あの日言えなかった言葉を心の中で呟いて。  やっぱり君はここにはいなくて、僕の行く先にも君はいなくて。  君が居ないという現実をそろそろ受け止めて、別の道を歩かなければいけない。  君が居ないこの世界を愛さなければいけない。  もしも、愛せるときが来たなら、そのとき君に会いに行くよ。  僕は新たな一歩を踏み出す。  散々間違ってきた道のりの果ては正解であることを祈りながら。  この道の先で君と再会することを願いながら。  僕は地下鉄の階段を下りる。  暖かい風が冷えた鼻先をくすぐった。 BUMP OF CHICKENの「ロストマン」より。
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